(38) イラスト生成AI騒動に思ったこと | 内向型人間の知恵ブログ

(38) イラスト生成AI騒動に思ったこと

  • 2022年10月18日 – 追記しました
  • 2022年10月19日 – 追記しました
  • 2022年10月20日 – 追記しました
  • 2022年10月24日 – 追記しました

率直に、手軽にハイクオリティのイラストを生成できるAIが世界に与える影響があまりにも大きすぎると思った。

NovelAIDiffusion (のべるえーあいでぃふゅーじょん)とは【ピクシブ百科事典】

AI vs 絵師の戦争勃発? たった10円以下で本格イラストをつくれる「NovelAI」は人類の仕事を本当に奪うのか:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1_5 ページ) – ITmedia ビジネスオンライン

AIで生成した絵を「描きました」とPixiv等に投稿する人続出、有料会員は犯罪(無断転載)に加担しているのではと懸念の声が – Togetter

NovelAIのリークで何が終わったのか? – soy-software

Pixivのおすすめで「NovelAI」もしくは「NovelAI Diffusion」のタグがついた投稿が増えたことが気になって調べたところ、知らないうちに相当な事態になっていることを知った。

詳しくはリンク先を参照してもらいたいが、
AIの学習素材が無断転載サイトだったとか、
そのAIを利用した画像生成サービスが有料だとか、
さらにはAIも学習モデルも世界中に流出したとか。

「子供に核兵器のスイッチを持たせるようなもの」という例えが的確だった。
それはもう地獄じゃん。

(俺はカネにできたことはないが)「AIに対する嫉妬」とか「失業の危機」とか、「絵が描けるという優位性を失いたくないんだろ」という主張や議論が霞んで見える。

一言でいうと、AIは「強すぎる」。
学習を積んだAIは、神絵師(個人的にフォロワー数万人以上と定義)のクオリティを、キャラクターや表現のキーワード指定をするだけで数秒~数分で生産できてしまうという。
プロに依頼する必要もなく、時間もカネもかけずに。

そりゃあ、世の中描く人よりも描かない・描けない人の方が多いんだから「便利」だと思う人の方が絶対に多い
「人の描いた絵には温かみがある」とか、そんな差別化は意味がなくなるだろう。
クオリティが高くて、手軽に満足できる手段があるなら、人はそれを使う。絶対に。
描く側の熱意とか情熱とか、培われた内面も経験も無価値になりかねない。

「AIはいずれ人の代わりになる」という主張自体はわからなくもないが、その過程があまりにもあっけなかったことが衝撃的すぎた。
人間の持つ創造性が、一瞬で、あっけなく無価値になった気がした

嫌な予感がしたのは、Pixivでサムネが気に入って閲覧した作品がどれも「NovelAI Diffusion」のタグが付いていることに気づいて、とあるアカウントの投稿がすべてAIが生成した画像だったときだ。

ワンドロでもなければ基本的に単体で公開されているようなクオリティの画像が、一つの投稿に数十枚単位で含まれているものを見つけたときに異常だと気づいた。

生成された画像は第一印象がとてもいい。
まず目が行く人物の顔は、イラストとして完璧と言っても過言ではない。
手や指のような細部には(今はまだ)問題があるが、見る側は顔、胸、股間、全体のシルエットに視線が行くから、手が隠れるポーズや構図ならまったく問題にならない。

個人的に注目したのは背景で、風景や色使いがあまりにも優れていることだ。
キャラクターは描けても、背景もバッチリ描ける人はなかなかいない。
それを習得しようと本を買ったり、時間を費やして調べたり試したりするのだが。
それが一つの投稿で30枚とか50枚とか添付されていたら、背景も満足に描けず1枚に2,3週間もかかっていた身としては目眩もする。

企業が許せばあっけなく商業に採用されて置き換わるであろう可能性に対して、描く側に携わる個人や組織が踏みとどまれるのか心配になる。

少なくともPixivにおいては、好みをAIで生成した画像が投稿されることは「イラスト(お絵かき)コミュニケーション」ではないと思う。

ピクシブ、AIイラストの「完全な排斥は考えていない」 創作コミュニティーとの“共存”模索中 – ITmedia NEWS

同人販売サイト各社、AI生成作品への対応を発表 タグ付け必須や一旦の対応見送りなど │ オタク総研 with IT

生成するAIはNovelAI Diffusion以外にもあるらしいが、ググっても、Twitterで検索をしても絵描きが反対している様子をほとんど見かけなかった。

検索エンジンだと今回の騒動やAIの使い方、Twitterでは「どうやってクオリティの高い画像を生成するか」の話題ばかり。
その画像を生成するに至ったアイデアや世界観が評価されているツイート見かけて思ったのは、
「今までが過程や手段に縛られていただけで、これからは感動させる好みや理想を持っていることが評価される」ということ。そういう時代になるんだろうか。

NovelAI Diffusionが画像生成機能を提供し始めたのが10月3日で、ソースコードの流出が10月6日。
俺が気づくのが遅かったことを抜きにしても、1週間も経たずに大勢に影響を与え、イラスト分野の未来をほぼ決定づけてしまった。
(無断転載かつタグで分類されたイラストでの学習やソースコード・学習モデルの流出はいともたやすく行われたえげつない行為と言って差し支えないだろう。)

画像生成AIが支援ツールに留まらずに神絵師のクオリティを実現してしまった現実を目にして、非常に複雑な気分になっている。
「描きたいなら描けばいいじゃん」「苦労したいならすればいいじゃん」と創作行為が鼻で笑われる時代になるんだろうか。
それとも、想像をAIで形にすることが創造になるんだろうか。
目の前に起きた変化が突然すぎて、不安とショックが入り混じって混乱している。

※追記

避けられないのなら、AIが生成した画像を自分の上達に活用できる方法を模索する方が前向きだろう。
細部がおかしくても成立するのはシルエットの説得力があるからだし、キャラクターを魅せるために背景がぼかしてあるという共通点や見栄えが良くなる演出も盗める。
……その労力で1枚を描いても大勢のユーザーが生成した神絵師クオリティの画像に埋もれそうだが。

※2022年10月18日追記

AIが生成できるのは萌え系イラストに留まらない。
ゲームのコンセプトアートみたいな空想の世界も無限に生成できる。
もし背景の生成ツールとして進歩していたら、自分も使っていたと思う。

生成した画像が無断転載されて怒ってる人が現れた模様。
……どうして絵描きが「画像生成AIはヤバい」と危機感を持つのか、努力や過程が軽視される側の気持ちが分かってもらえるんじゃなかろうか。

なんJですの _ 【悲報】AI絵師さん、無断転載されてマジギレしてしまう

それに、AIが生成した画像で「人気になりたい」「評価されたい」なんて矛盾している。
なぜなら、「それはもう誰にでもできること」だから。
「特別」という概念がなくなる。
大勢に受け入れられたのは生成された画像のクオリティであって、「誰がそれを出力したか」は重要ではない。

生成した画像を加筆・修正してAIをうまく活用しようとしている絵描きも当然いる。
だけど、その「形を整える」という行為すら不要・蛇足かもしれない。
画像生成AIは補助ツールではなく、仕上がったものを出力する。
大勢はその結果に満足しているから、PixivやTwitterに載せる。
その様を見ていると加筆・修正することの付加価値はとても薄く感じる。

「供給が無限になったことで、価値がゼロに近づく」。その通りだと思う。
「絵を描く」という行為は、自分自身が望まない限り無価値になってしまった。

(追記)この強力なAIの登場を喜んでいる人の中には、「絵描きはラクしてカネを稼いでいるから滅べばいい」という人がいる。5chでもTwitterでも。
なんだろう。ラクだと思ってるなら同じように絵を描いて生活すればいいのでは?
「ラクして稼いでいるのが許せない」というのは、善悪の話じゃなくて「ラクして稼ぎたい人間の嫉妬」。
他人がラクをするのは許せないのに、描く大変さも知らずにAIで手軽に生成して負かしてやろうとする思考はどうかと思う。

※2022年10月19日追記

的確な喩えだと思ったので埋め込み引用。
AIの進歩に興味があったり興奮する「描かない人」にとっては最高のオモチャなんだろう。
立場が違うことで「繁殖力の強い外来種」という自覚がないのは驚異だ。

※2022年10月20日追記

数日悩んで、「AIが登場しようがしまいが、俺が絵を描きたいことには変わりがない」という結論に至った。
と言っても底辺絵描きだから、すでに抱えている悩みに支配されていて手一杯。
早く報われたい。

※2022年10月24日追記

Pixivの対応が発表されたのでリンクを掲載。

pixiv、画像生成AI作品への見解発表「AIはクリエイターを助ける技術となり得る」(KAI-YOU.net) – Yahoo!ニュース

[pixiv] お知らせ – AI生成作品の取り扱いに関するサービスの方針について

無難な選択だと思う。
結局はAIよりも人間のモラルが問題だった。
この棲み分けが承認欲求やカネ儲けのための詐称を防げるといいが。

メカやドレスのデザインのように「苦手な部分をAIにアイデアをランダムで出力してもらい、クリエイターが採用する」という補助ツールとなればいいのだが、その使い方ができるかどうかは現状では非常に怪しいと考えている。
今のところ出回っている画像生成AIが学習した素材や経緯にいい話は聞かない。
ごちゃまぜになって影響を与えた絵を特定できないからと言って、その出力された画像から得られたアイデアを「自分のもの」にするのはどうなんだろう、と。

明確な指標もないから、良く言えば「自己責任」。悪く言えば「やったもん勝ち」。
荒れ狂う海の中、どこに向かえばいいのか・どこに向かっているのかもわからない嵐の中にいる気分だ。