先日、一部のPixivユーザが作品を機械学習に勝手に利用されることについて抗議し、投稿作品を非公開にする動きが起こり、Pixivが対応を発表した件について。
前回はAIイラストに自己申告でタグを付けるような仕様の変更がされたが、今回は「FANBOXでAIを販売する行為」や「特定のクリエイターの作風を模倣した作品の投稿」を禁止するようガイドラインを改定するとのこと。
AI生成作品に対する、FANBOXにおける今後の対応|pixivFANBOX公式|pixivFANBOX
pixivFANBOX、AI生成作品を当面禁止に _ ニコニコニュース
これについて思ったことを書く。
図らずも半年前に書いたものの続き。
【日記】イラスト生成AI騒動に思ったこと _ 内向型人間の知恵ブログ
Pixivユーザの抗議を知った経緯
今回の抗議を知ったきっかけは偶然だった。
模写したイラストの作者の名前を調べに行ったら、該当する作品のページが非公開になっていて、そこで察した。
上手い人が作品を削除したり非公開にするのは、よほどのことが無ければありえない。
作品のファイル名で検索したところ、前日に作者のTwitterで非公開にしたという投稿に行き着いた。
イラストコミュニケーションサービス[pixiv]
Bunny – pixiv年鑑(β)
AI学習の件があり、私もpixivのイラストを一時非公開にしました🙏現在、画集告知の投稿のみ残しております。
— イコモチ🍡 (@rswxx) May 6, 2023
また、今後は過去のTwitterイラストも少し整理しようかなと思います💦
よろしくお願いいたします
また、フォローしているユーザの新着でAIイラストに反対する投稿が表示されたのもきっかけ。
これらの投稿はSupportHumanArtistsタグで見ることが出来る。
SupportHumanArtistsのイラスト・マンガ作品 – pixiv
精神の健康のためにTwitterで絵描きのタイムラインを見るのはやめたから、これ以外に誰が何を言っているかは知らない。
畑違いの感想
この後、たまたま見た生放送で技術畑のユーザが「こういった抗議に意味がない」という主張をしているのを見た。
「わかってない」「ネットに上げただけで学習の対象になるんだから、そういう時代をどう生きるかを考えなきゃいけない」と。
一理あるが、逆に言うと一理しかないと思った。
IT分野もイラストも両方かじってる自分からすれば、AIの完全な・法的な規制は現実的ではないのも事実だとわかる。
だけども、その正論には絵描きの感情が抜けている。
絵を描くことに情熱や努力・時間を費やしてきた人が、それらを軽視され、絵柄や作風を盗まれることに危機感を覚えることは想像できる。
そして、絵を描いていない・Pixivに投稿してもいない人にそれが分かるだろうか。いや、分からない。
誰にとっての「便利なAI」か
今一度考えたいのは、「そのAIが誰にとって、どのように便利なのか」ということ。
絵描きにとってアイデアや作業の負担を肩代わりしてくれるものならともかく。
描かない人・描くことに興味がない人がプロレベルの生成物で神絵師を名乗るために便利なAIなのか?
(個人的に「AI”絵師”」という呼び方は正しくないと思っている。「だって、描いてないじゃん」とまっ先に思う。可能性を模索する”術師”呼びならわかるが。)
半年前と同じように今回も見かけたのは、「絵描きだって2次創作でFANBOXでラクして金儲けしてるじゃん」という主張。
これはAI画像投稿者の擁護というより、以前からある絵描きへの批判・不満だと思うが。
FANBOXで禁止されようとしている「AIイラストの販売」は、「FANBOXのコンセプトを守るため」と声明がでている。
簡単にいえば、AIを用いてイラストを生成することは「創作ではない」ということ。
努力や苦労は美徳でも正義でもないが、クリエイターの思い入れがあるという点でAIイラストとは天と地ほどの差がある。
今回の対応を受けてAIイラスト投稿者側が批判するのも想像できるが、まぁ極端な話、「嫌ならサービスを使わなければいい」。
AIイラストを受け入れているサイト・サービスは他にもあるだろうし、超極端な話、自分たちで環境を作るという方法だってある。
AIイラストが受け入れられる在り方は
この問題は「コンテンツの引用の話」と似ていると思う。
少し話が逸れるが、
引用は、お硬いところでは論文、身近なところではブログなどで見ることができる。
簡単にいえば、他人の著作物を合法的に扱うことができる手段であり、ルールのこと。
厳密なルールを語るのは面倒くさいが、代表的なものが2つある。
一つは、引用したものがメインコンテンツを説明するためのサブコンテンツであること。
二つ目は、引用元(出典)を記載すること。
これらのルールを守ることが引用であり、逆に言うと、引用した側の意思には依らないところがある。
例えば2ch/5chのまとめブログというのは、ページの最後に引用元のURLを提示している場合が多いが、実際には掲示板の書き込みそのものがメインコンテンツになっているため、引用とは呼べない。
(無断転載だと言われたらそれまでである。)
これがAIイラスト騒動にどう関係するのかと言うと、制作するコンテンツの中で畑違いのものを補うためにAIの力を借りるのはアリだと思う、ということ。
「TRPGのシナリオは書けるけどキャラクターの立ち絵はね…」とか、「音楽のPVを作りたいけど絵が描けない」とか。
あれもこれも出来ないのが当たり前。
ゲーム開発なんて、キャラクターもプログラムもBGMも全部一人でこなせる人はそういない。
(東方Projectのシューティングゲームを手掛けるZUN氏は有名だと思う。)
例えばニコニコ動画のゲーム実況動画でAIイラストを立ち絵代わりに使っているものが見られ、このようにメインで手掛けているものがあり、それを補う”サブコンテンツ”という扱いであれば、AIイラストの有効活用だと呼べるのではないかと考えている。
(小説の表紙にAIイラストだと、まずAIイラストに目が行くので「客を釣るため」と思われそうでもある。)
何が言いたいかというと、「AIイラストは引用のようなものであり、それ自体で『私はすごい』とか『認められたい』とか、『カネ儲けしたい』と言うのは無理なんじゃないか(というかして欲しくない)」というのが結論であり、俺の主張。
さいごに
主観的な感想を言わせてもらえば、AIというのはやはり、絵描きの努力も苦労も情熱も知らないものだ。
優劣を自覚して、時間を費やして、風呂に入るときも散歩するときも、寝るときも絵について考える。
楽しさだけじゃないし、すぐに上達することもなく、ネット時代の今ではライバルの多さに埋もれることが当たり前。
努力は保証されないし、苦労は美徳ではないが、それらがあってこその創作行為がAIの使い手に軽視されている現状は好ましくない。
そういった点から、今回のPixiv・FANBOXの声明は妥当だと思う。
完璧な対応は現実的でないとしても、創作行為が軽視されない世の中であってほしい。
そしてこの先、AIが浸透する時代だとしても、「認められたければ努力しろ」と思う。